Story 2
患者さん
伊藤 海人
(いとう かいと)さん
主治医
谷口 明徳 先生
順天堂大学医学部附属順天堂医院
小児科・思春期科
4歳のときに血友病Bと診断。高校卒業後、アメリカの大学に進学して演劇を学ぶ。現在も所属劇団の公演に向けて稽古に励む毎日を送る。現在の担当医は順天堂大学医学部附属順天堂医院 小児科・思春期科 谷口明徳先生。
演劇との出会いが、つまらなかった僕の毎日に革命を起こした
伊藤さん 母方の親戚に血友病の方がいたため、両親はおそらく僕も血友病だろうと考えていたそうです。4歳のときに足を捻挫して調べたところ、やはり血友病Bと診断されました。当時は半年に一度の頻度で検診をして、怪我をしたときにオンデマンドで治療をするといった具合で、定期的な治療はしていませんでした。小学生になって、サッカーで怪我をしたときに、膝の内出血を放置していたら悪化してしまい、1週間入院をしたことがありました。それ以降、怪我をしたらすぐに冷やすことや、痛くなったら放置しないといった対処は徹底してきました。ただ、病気のことは自分であまり意識したことはありませんでした。両親からも血友病を理由に僕がやりたいことを止められたことはありません。
子どもの頃から『ハリーポッター』のシリーズが大好きでした。日常から非日常に進んでいく、ファンタジーの世界に強く惹かれ、中学2年の頃には海外で映画製作に携わりたいと思うようになりました。そこで英語教育に強い高校に進学して、海外の大学への進学を視野に入れていたところ、演劇に出会いました。初めて観劇したのは、緻密に練られたコメディを得意とした劇団の芝居でしたが、それがすごく面白くて。生のライブで伝わってくる空気感や新鮮さを体感し、「これだ!」と思いました。そのときに演劇を勉強しようと心に決めたのです。
演劇では、客席と舞台との間に一応の境界はありますが、同じ時間帯・同じ空間に存在して、その場の空気を一緒に味わうことができます。映画ではスクリーンの向こうにしかなかった非日常が、演劇ではこんなにも身近に非日常があったのだと気づかされました。つまらなくて灰色だった毎日が、演劇に出会ったことで色鮮やかになり、ぐんと視野が広がりました。演劇にはその変化をもたらす力があります。僕にとって、演劇は自分自身の“革命”だと思っています。
子どもの頃から『ハリーポッター』のシリーズが大好きでした。日常から非日常に進んでいく、ファンタジーの世界に強く惹かれ、中学2年の頃には海外で映画製作に携わりたいと思うようになりました。そこで英語教育に強い高校に進学して、海外の大学への進学を視野に入れていたところ、演劇に出会いました。初めて観劇したのは、緻密に練られたコメディを得意とした劇団の芝居でしたが、それがすごく面白くて。生のライブで伝わってくる空気感や新鮮さを体感し、「これだ!」と思いました。そのときに演劇を勉強しようと心に決めたのです。
演劇では、客席と舞台との間に一応の境界はありますが、同じ時間帯・同じ空間に存在して、その場の空気を一緒に味わうことができます。映画ではスクリーンの向こうにしかなかった非日常が、演劇ではこんなにも身近に非日常があったのだと気づかされました。つまらなくて灰色だった毎日が、演劇に出会ったことで色鮮やかになり、ぐんと視野が広がりました。演劇にはその変化をもたらす力があります。僕にとって、演劇は自分自身の“革命”だと思っています。
病気であることを自然に受け入れてもらえた
アメリカでの生活
伊藤さん 高校を卒業して数ヵ月後に渡米し、アーカンソー州にある大学に入学しました。渡米するときは、「海外で演劇を学べる!」というワクワクのほうが強くて、病気についてもまったく不安はありませんでしたね。当時は定期的な補充治療はしていなかったことなどから、薬は持参しませんでした。
気を付けてはいたものの、舞台の稽古中に怪我をしてしまいました。現地の病院で、日本から用意していた英文の紹介状を見せて必要な処置は理解していただいたのですが、とても田舎の病院だったので、すぐに薬を打つことができませんでした。薬を取り寄せるのに2週間かかるというので、結局は注射などの治療はせずに過ごしたのですが、そのときは運よく大事には至らずに済みました。ただ、本番の1週間前に怪我をしたということもあって、本来はアクロバットで激しい動きをするはずが、怪我のためにすべての振付を変えざるを得ず、とても悔しい思いをしました。
留学中、血友病であることは同じ演劇科の仲間には伝えていました。僕の経験では、日本で自分が血友病だというと、病気や症状について説明する必要があったり、気を遣われたりすることもあるのですが、アメリカではそういったことはなく、「みんな何かしら持っているよね」といった感じで、ごく普通に受け入れてくれて、その点ではとても居心地が良かったです。身体のケアを学んでいる友人には、応急処置などでとても助けられました。コロナの影響もあって留学期間は3年半ほどですが、とても楽しく、有意義な日々を過ごすことができました。
気を付けてはいたものの、舞台の稽古中に怪我をしてしまいました。現地の病院で、日本から用意していた英文の紹介状を見せて必要な処置は理解していただいたのですが、とても田舎の病院だったので、すぐに薬を打つことができませんでした。薬を取り寄せるのに2週間かかるというので、結局は注射などの治療はせずに過ごしたのですが、そのときは運よく大事には至らずに済みました。ただ、本番の1週間前に怪我をしたということもあって、本来はアクロバットで激しい動きをするはずが、怪我のためにすべての振付を変えざるを得ず、とても悔しい思いをしました。
留学中、血友病であることは同じ演劇科の仲間には伝えていました。僕の経験では、日本で自分が血友病だというと、病気や症状について説明する必要があったり、気を遣われたりすることもあるのですが、アメリカではそういったことはなく、「みんな何かしら持っているよね」といった感じで、ごく普通に受け入れてくれて、その点ではとても居心地が良かったです。身体のケアを学んでいる友人には、応急処置などでとても助けられました。コロナの影響もあって留学期間は3年半ほどですが、とても楽しく、有意義な日々を過ごすことができました。
演劇という夢を続けるためには、
定期補充療法が必要だと思った
伊藤さん 2024年にアメリカから帰国し、1年間演劇養成所で日本の芝居を学び、2026年に現在の劇団に入りました。これから演劇を続けていく上で、怪我をしてから治療をするのではなくて、怪我をしないように予防することが重要だと考え、担当医の谷口先生に相談し、定期補充療法を開始しました。稽古の時間を優先して、なるべく病院へ行く時間を減らしたいため、現在は自宅で自己注射をしています。
定期補充療法を始めてから、思い切った芝居をすることが増えました。多少激しい動きでも、とりあえずやってみようという気持ちで取り組めています*)。注射は嫌いですし、苦手ですが、半年が経過してようやく慣れてきました。最初に自分で注射をしたとき、看護師さんに褒められたことがとても嬉しかったですね。その後、失敗することがあっても看護師さんにアドバイスをいただきながらテクニックを覚えていきました。
治療効果や生活上の変化には個人差があります。
現在は2週に一度の注射なので、生活スタイルが変わったり、生活のしづらさを感じたりすることはありません**)。谷口先生には、痛いところや違和感があれば伝えるようにしています。谷口先生はまとわれている空気がとても柔らかくて、僕からも相談しやすいです。
投与期間と生活上の負担感の関連性については、あくまで個人の感想です。
定期補充療法を始めてから、思い切った芝居をすることが増えました。多少激しい動きでも、とりあえずやってみようという気持ちで取り組めています*)。注射は嫌いですし、苦手ですが、半年が経過してようやく慣れてきました。最初に自分で注射をしたとき、看護師さんに褒められたことがとても嬉しかったですね。その後、失敗することがあっても看護師さんにアドバイスをいただきながらテクニックを覚えていきました。
治療効果や生活上の変化には個人差があります。
現在は2週に一度の注射なので、生活スタイルが変わったり、生活のしづらさを感じたりすることはありません**)。谷口先生には、痛いところや違和感があれば伝えるようにしています。谷口先生はまとわれている空気がとても柔らかくて、僕からも相談しやすいです。
投与期間と生活上の負担感の関連性については、あくまで個人の感想です。
目指すのは
境界を越えた演劇の世界。
これからもやりたいことを諦めずに生きていく
伊藤さん 僕が今所属している劇団は、どう動けば美しく見えるか、あるいは不思議な空気をつくれるか、といった身体表現を大切にする劇団で、先輩方から指導を受けながら学んでいるところです。僕の原点ともいえる『ハリーポッター』から感じていた「日常」と「非日常」、「具体的なもの」と「抽象的なもの」、「スクリーン越しの映像」と「生身の芝居」、「舞台」と「観客」といった、二つの視点の間にある境界線を混ぜ合わせて融合していくような、これまでにない演劇ができないかと模索しているところです。将来は脚本や演出にも挑戦してみたいと考えています。
僕は現在も自分が血友病であることを強く意識はしていません。もちろん定期補充療法や怪我をしたときなどの対処はとても大切にしていますが、挑戦したいことがあったら、とりあえずやってみるようにしています。やりたいことをやるために生きていたいと思っているので。血友病の方々は、病気があることで何かに挑戦することに不安を感じるかもしれません。でも、どんな形でもいいので興味をもったことに一度は触れてみてはどうかな、と思います。全部やらなくてはいけないということではなくて、その分野に軽く携わるということだけでも、とても良い経験になると考えています。
僕は現在も自分が血友病であることを強く意識はしていません。もちろん定期補充療法や怪我をしたときなどの対処はとても大切にしていますが、挑戦したいことがあったら、とりあえずやってみるようにしています。やりたいことをやるために生きていたいと思っているので。血友病の方々は、病気があることで何かに挑戦することに不安を感じるかもしれません。でも、どんな形でもいいので興味をもったことに一度は触れてみてはどうかな、と思います。全部やらなくてはいけないということではなくて、その分野に軽く携わるということだけでも、とても良い経験になると考えています。
主治医
谷口 明徳 先生
順天堂大学医学部附属順天堂医院 小児科・思春期科 *肩書は取材当時
谷口 明徳先生からの
メッセージ
海人くんを診察するようになって約半年が経ちます。前任の医師が定年退職したタイミングで私が診察を引き継ぐことになりました。留学から帰国されて、今後も演劇をされるのであれば定期補充療法に切り替えたほうがよいと考えていました。そこで、初めてお会いした時に定期補充の意思をお聞きし、「やってみたい」という回答だったため定期補充療法を導入しました。初めは採血も苦手だったようですが、現在は自宅での自己注射を頑張っていますね。
血友病診療において、凝固因子活性値を定期的にモニタリングすることは大切です。治療目標として活性値を意識しながら、患者さんが困っていることに対してどう対応していくかが重要です。その方の生活の中で無理なく継続できる形で、かつ必要十分な量を補充できるラインを、患者さんと相談しながら検討しています。患者さん一人ひとりで、これまでの病気との付き合い方や生活上の困り具合、その生活での必要な治療強度は異なりますから、最終的には患者さんご自身が治療を選択されることを尊重したいと考えています。
現在、私が診ている血友病患者さんの中では、海人くんが最年長ですが、年齢にかかわらずどの患者さんにも好きなことに挑戦していただきたいです。まずはどんなことでもやってみて、そこで何か不具合がある場合には、我々が可能な限りすべてを対応しますし、現状の方法で難しい場合には、もう少しこうすればできるのではないかな、ということを次の案として提案することができます。何か挑戦したいことができたときに心配なことがあれば、いつでもご相談いただければと思います。
血友病診療において、凝固因子活性値を定期的にモニタリングすることは大切です。治療目標として活性値を意識しながら、患者さんが困っていることに対してどう対応していくかが重要です。その方の生活の中で無理なく継続できる形で、かつ必要十分な量を補充できるラインを、患者さんと相談しながら検討しています。患者さん一人ひとりで、これまでの病気との付き合い方や生活上の困り具合、その生活での必要な治療強度は異なりますから、最終的には患者さんご自身が治療を選択されることを尊重したいと考えています。
現在、私が診ている血友病患者さんの中では、海人くんが最年長ですが、年齢にかかわらずどの患者さんにも好きなことに挑戦していただきたいです。まずはどんなことでもやってみて、そこで何か不具合がある場合には、我々が可能な限りすべてを対応しますし、現状の方法で難しい場合には、もう少しこうすればできるのではないかな、ということを次の案として提案することができます。何か挑戦したいことができたときに心配なことがあれば、いつでもご相談いただければと思います。